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目指せ「旅慣れ」!30代サラリーマンが旅についてあれこれ綴ります。

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【読書】沢木耕太郎「深夜特急」④/旅の始まり!シルクロードをバスに乗って

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紀行文学の名作・沢木耕太郎「深夜特急」の第4巻をご紹介します。インドで謎の病に倒れた<私>。4巻ではようやくロンドンを目指した乗合いバスの旅が開始します。

 

 

前回ご紹介した第3巻ではインドに入国。カルカッタ、ブッダガヤ、ネパールのカトマンズ、インドに戻ってベナレスを経て、本来の旅の出発地であるデリーに到着します。

 

しかし、折からの体調不良により気を失うように眠りについたのでした。

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さて、<私>の運命やいかに……

 

旅のはじまりと、恐怖のパキスタンバス

ボーイからもらった薬を飲んだあと、何時間か何日かもわからないほど眠り続けた<私>。

 

目を覚ますと、体が軽くなっていました。

 

インドの薬恐るべし!

 

念のため1週間療養して、その後は安宿、さらにドミトリーに移ります。

しかし、インドの首都・デリーではカルカッタのように熱狂に導かれることはなく、怠惰な時間を過ごすようになってしまいます。

 

そんな沼にはまりこんだところで、1巻第1章の旅立ちを決断するシーンにようやく繋がります。

 

旅立ちを決断した<私>は、パキスタンとの国境に近いアムリトサル行きのバスに乗ります。

 

インドのバスについて、<私>は下記のように記しています。

インドのバス、とりわけ長距離バスを一口で説明すれば、座席のある貨物カーとでもいったおけばいいのかもしれない。乗客は、まるで家財道具一式を抱えて旅行しているのではないか、と思えるほどの荷物を持ってバスに乗る。
(中略)
しかし、それも無理はないのだ。少し遠くへ行こうと思うと、すぐに三、四日かかってしまうのだから、寝具や着物、それに食料は持ち運ばざるをえない。
~本文中より

アムリトサルに1泊した<私>は、シーク教総本山の黄金寺院を見ることもせず、早速国境を目指します。

 

インド側の出国審査を終えて、パキスタン側の国境事務所までは一本道。<私>はそこで、一人の白人バックパッカーとすれ違います。

 

そして、お互い未知の国々を通りすぎてきたことに親愛と畏敬の念をこめて、「グッド・ラック!」と言葉を交わし合うのでした。

 

国境からバスでラホールに到着した<私>は、そのままラワール・ピンディー行きのバスに飛び乗ります。

 

これが、とんでもないバスでした!

 

前述したインドのバスも凄まじいもので、道の真ん中を猛スピードでぶっ飛ばし、対向車が来たとしてもギリギリまでお互いに避けようとしないチキン・レースそのものでしたが、パキスタンのバスはそのインドのバスを上回っていたのです。

猛スピードで突っ走ることは変わらない向こうからやって来る車と肝試しのチキン・レースをやることも同じだ。違うのはそのレースの仕方の凄まじさである。
パキスタンのバスはどれも相当くたびれているが、眼の前にある車はすべて追い抜かなければ気がすまないというような勢いで強引に走っていく。(中略)だが、相手が乗用車である場合はいい。前にいるのが同じバスだと恐ろしいことになる。
~本文中より

前にバスがいた場合は、こちらは「追い抜こう」と、あちらは「追い抜かれまい」として並行して走ることになる上に、対向車線からバスが来た日には3台のバスでのチキン・レースが始まるそう……。

 

3台とも避ける意思がなさそうなのに、結果的にはぶつからないのですが、なんとも恐ろしい……。

 

そして、<私>が乗車したラワール・ピンディ行きバスの運転手はとりわけ凄まじいものでした。

 

日が暮れても依然として飛ばしに飛ばしまくるバスに、<私>は異国で命を落とすことが頭によぎります。

 

やっと、ピンディーの町の灯が見えた、と思ったとき、

 

<私>の乗ったバスは、前のバスを追い抜こうとして、更にその前にいた乗用車にぶつかってしまいます!

 

路肩に飛び出す乗用車。しかし、バスは止まりません。

狐につままれたような気持でいると、一キロくらいは知ってから速度をいくらか落とし、運転手が振り返り、
「どんなもんじゃろ」
といったようなことを言う。すると最後部の座席にいたオッサンが背後を見やり、
「なんだかわからんが、後から車は来るぞな。動いとるんじゃ平気だわな」
てなことを言い返す。動いているのは別の車かも知れないのに、車内の人々はなにか深く頷いて、口々に叫ぶ。
「チャロ、チャロ!」
つまり、さあ行こう、行っちまえ、と言っているらしいのだ。私は唖然とし、次に腹の底から笑いたくなってきた。
~本文中より

にわかに信じがたいですが、このエピソードはこの「深夜特急」を代表するものの一つなのではないかと思います。

 

ラワール・ピンディで宿泊した<私>は、アフガニスタンへ陸路へ抜けるルートとして、ペルシャワールからカイバル峠を越えてカブールに至るルートを選択します。

 

このあたりのルートは以前にご紹介した「鉄道大バザール」の逆ルートになるのですが、ほぼ同時代に旅をしていたはずなのに、著者によって感じかとというか、描写がだいぶ違うので面白いです。

 

印象としては、セルーがどちらかというと社会とか、その国の文化とか、大きな枠組みに対しての批評が多いのに対して、沢木の視点は個々人に向けられたものが多いように感じます。

 

カブール/ヒッピー・バスに乗って

アフガニスタンの首都カブールに到着した<私>は、客引きをすることを条件に格安の宿を確保します。

 

別の宿に泊まる日本人バックパッカーたちとの出会いもあり、思いがけずカブールに長居することになりました。

動くことが億劫になり始めた<私>でしたが、日本の知人がテヘランを訪れることを知り、出発を決めます。

 

体調不良のなかカンダハルへ向かうバスへ乗り込んだ<私>は、自分が外界に対して好奇心を失い始め、アフガン人の親切もわずらわしく感じることに驚きます。

 

ここまで、比較的陽気に旅をしてきたように見えた<私>ですが、だんだんと荒んできます。

 

まぁ、一人旅を長く続けてきたら、こういうこともあるでしょう。

 

好きでしているくせに何言ってるんだと言われそうですが、楽しい反面、旅は孤独で疲れるものということもわかります。

 

知人との夕食を目当てに先を急ぐ<私>は、あっという間にアフガニスタンを通過し、イランに入国。

 

テヘラン、イスタンブールを経由して、ヨーロッパへ向かうというヒッピー・バスに乗り込むことにします。

 

バスの中にはオーナー兼ドライバーのパキスタン人2人組、客引きや荷物の出し入れ役のネパール人、乗客はイギリス、ドイツ、フランス、オランダ、イタリア、アメリカ、オーストラリアからの旅人に加えて、日本人の<私>。さらに監視のために同乗したイラン人警官と多国籍なメンバー。

 

トラブル続きで行程が遅れに遅れながら、バスの中には段々と一体感が生まれてきます。

 

そして、出発から3日、ようやくテヘランに到着します。

 

<私>と人々の交わり

無事に知人と再会した<私>は、豪華な夕食をご馳走になります。

 

その後5日間過ごしたテヘランは想像以上の大都会でした。しかしこれまで読み進めてきてわかるように、大都会は<私>には退屈なものでした。

 

<私>はアラビア半島経由でトルコを目指すことにして、サービス満点のイランのバスでシラーズへ向かいます。


そして、シラーズにはしばらく滞在したものの、クウェートへのビザが取得できず、行き先を変更。イスファハンへ到着するのでした。

この4巻ではついに本来の旅が始まり、中東に突入するのですが、まず印象的なのは、<私>と現地の人々との関わりです。

 

インドでも中東でも、モノを買うのにも、宿に泊まるにも、まず交渉から始まります。

 

マカオのカジオでの出来事のように、<私>はゲーム的要素にのめり込む性格のようで、各地で猛交渉を繰り広げます。

 

落としどころを決めて、はったりを使ってと、半ば強迫観念にかられたように値下げを勝ち取る<私>。

 

でも、最終的に冷静になると、相手のことを思って反省してしまう、というのがなんとも憎めないというか、魅力的なところでもあります。

 

また、だんだんと欧米諸国のヒッピーたちとの交流も増えてきます。

 

旅慣れているものの、長旅に疲れはてて、薬物に溺れるものもいる彼らの姿に、<私>は怒りを覚えたり、自らを省みたり、救いの手を差しのべなかったことで暗い気持ちになったりします。

 

中東の道のりも半ばになり、いよいよヨーロッパが近づいてきた<私>の旅。

 

旅が進むにつれて、それてゴールが近づくにつれて、<私>は自分自身の変化を感じるようになってくるのです……

 

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